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それを見たわたしが歓喜にふるえたのは言うまでもない。いつぶりだろうか、ずいぶんと久しぶりのように思える。
最近は冷える日が続いていたと思っていたところだ。
わたしはソファーの定位置よりも真っ先にそれに向かい走り出した。
「あぁ、やっぱり好きだよな、こたつ」
こたつの横には滋が笑顔で立っていた。
こたつを出してくれたのは滋だ。いつも温かい場所をわたしにくれ、おいしいごはんもくれる。
滋はわたしの言うことなら何でも聞いてくれるから、こたつも必然だろう。
滋はこたつに入らず、ソファーに座ってしまった。ソファーの目の前にはこたつ。もしかして温かくないのだろうか?
わたしがこたつに近付くと滋はこたつ布団を上げ中を見せてくれた。
「入れたばっかりだけど、あったかいぞ」
温かくないときは薄暗いこたつの中は、いまは明るい。
今日は朝から家にいる滋。休み、というやつだろう。
そして今日は朝から温かい日でもある。最近寒くて滋のベッドの中へ潜り込んでいたけど、今朝は自分のベッドで寝ていても寒くはなかったから。
休みだからこたつを出してくれたのだ。取り立てて寒いという日でもないのに。
だから滋はこたつに入らないのだろうか。一緒に入ればいいのに。
そうは思うがこたつの誘惑には勝てない。
わたしは滋が上げてくれたこたつ布団の隙間から中へ入った。
するとすぐに布団は下ろされ、おれんじいろの光の中はわたしだけになった。
まんなかまで行き、体を倒ししばし温もりを楽しむ。万遍なく降る温かい光は体をほぐし、眠気を誘う。
「あったかいだろ」
滋の声が聞こえる。まだ完全に眠いわけではない。でも返事をするのもおっくうだ。
このまま久しぶりにこたつでまったりするのも悪くない。でも。
わたしは体を起こすとこたつから抜け出た。
「タマコ」
滋はわたしを見ると驚いたように、名前を呼んだ。
そう、今日は休みなんだから。
ソファーに上り、滋の膝の上に乗り安定する場所を探す。滋はその間じっと動かないでくれた。そうそう、いまはわたしに触らないでね。
収まりのよい場所を見つけ、体を丸める。
「タマコ」
見上げると滋は嬉しそうな顔でわたしを見下ろしている。嬉しいでしょう、だいすきなわたしが膝に乗って。今日はまだ寒くないからこたつはいいわ。勿論こたつは嬉しいけど。今日はね。
「は〜タマコ、久々だもんな、ゆっくり出来るの……ここのところ仕事バタついてて構ってやれなくてごめんな……」
滋がわたしの背中をゆっくりと撫でる。
そう、ゆっくりね、でも今撫でてほしいのはそこじゃないのよ、分かるでしょ?
「タマコ」
頭を指先でなぞるように撫でてから、わたしの顎を優しい手が往復する。きもちいい。そうよ、そこがいいの。
「ふふ、タマコ、きもちいいか?」
ゴロゴロ。喉が勝手になってしまう。でもいいの、滋はこの音がすきだから。
今日はこたつより滋をゆうせんしてあげるわね。だって、久しぶりにわたしが構ってあげられるんだから。撫でてくれたあとはおもちゃで遊んであげる。でもいまはちょっとだけ。
「タマコ、眠くなっちゃった?」
目を閉じれば睡魔はそこまできていた。だけど、今日はもっと。
「タマコ」
「にゃう……」
眠そうな声で返事をする。ちょっとだけ寝るわね、起きたら……おやつかな。
「おやつは起きたらかな」
分かっているじゃない。でも返事をするのもめんどくさい、だから尻尾を一振り。きっと滋には通じたわよね。
だからちょっとだけおやすみなさい。
完
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