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1 疑惑が確信に変わる時
昼下がりの休日、橋田広香は臨月を迎えた大きなお腹をさすりながら、久しぶりに会う友人の話に耳を傾けていた。
「不倫ものの漫画ってさ、なんでこうも主人公が弱気なわけ?」
莉央の言葉には、怒りが滲み出ており、広香は苦笑いしながら答えた。
「莉央みたいな女が主人公だったら、話すぐ終わっちゃうからじゃないの?」
「そうかもしれないけどさー、読んでてイライラすんだよね。傷ついてメソメソ泣いてる暇あったら、不倫してる男なんてさっさと捨ててやればいいのに!」
「ちょっと!あんまり大きな声で不倫だなんて言わないでよ。子供もいるんだから」
苛立ちを抑えきれずにテーブルをドンと叩いた友人を、広香は思わず小声で諫めた。
休日のファミレスには、家族連れが多く、近くを何度も小さな子供が走り回り、それを母親が必死になって追いかけている。
「ごめんごめん。私さ、マジでこういう系、感情移入しちゃうんだよね」
そう言って、ポリポリと頭を掻いて笑う莉央は、一年ぶりに会う大学時代の友人だ。
大学を卒業してもう六年。二十八歳になった私たちは、不倫漫画の話で盛り上がるような年齢になってしまった。
学生のころは「結婚」なんて遠い先の話、「不倫」なんてドラマの中の話でしかなかったけれど、二年前に結婚し今月出産を控えている広香と、今年彼氏と婚約したばかりの莉央にとっては、「結婚」も「不倫」も他人事ではない。
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