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「大丈夫だよ。あの人は人前で暴力ふるったりしないから」
少なくともここは公共の場で、近くには莉央もいる。外面がいい渉が何かするとは思えなかった。それに、確かに渉と顔を合わせることに恐怖心もあったが、このまま無視し続けた方が、状況は悪くなる気がした。
広香が意を決して玄関のドアを開けると、そこには狂気じみた顔の渉がいた。
「何度連絡したと思ってるんだ……!」
「意図的に無視したのよ。それで、こんなところまでなんの用?」
「なんだその態度は……っ!」
と前のめりになった後、広香の後ろに莉央がいることに気づいたのだろう。渉は途端に眉を下げ、ため息をついた。
「……僕はただ、謝りたかったんだ。手帳破いてごめん。だから、戻ってきてくれないか。莉央さんにも、これ以上迷惑かけるわけにいかないだろ」
そんな軽い謝罪一つで、戻ってくるとでも思っているんだろうか。広香はあまりにも傲慢な渉の言葉に面食らった。それに、今更謝られたところで、戻るつもりは毛頭ない。
「離婚するって言ったでしょ。もうすぐあなたのところに弁護士さんから内容証明が送られるはずです。今後は弁護士を通じてやりとりしましょう」
「なんで突然そんなこと……!僕が何かしたか?あの時は、君が離婚を考えてることを知って、頭に血が上っただけで……」
「本当にそれだけの理由で私が離婚したいって言ってると思ってるの?」
「……」
「私、全部知ってるんだよ。……渉さん、一ノ瀬さんと不倫してるでしょ?」
るり子の名前を出すと、途端に渉の目が泳いだ。
「いや、それは……」
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