450人が本棚に入れています
本棚に追加
と、渉がこびへつらうように目配せするが、修二はその視線を振り払い、にこやかに言った。
「男であろうが女であろうが、相手を傷つけていいわけがありません。まずはそのことを謝ったらどうです?」
「……っ」
修二の言葉に、渉の顔が燃えるように赤く染まっていく。こうやって妻の前で他の男に説教じみたことをされるのが、屈辱的なのだろう。
渉は口をぱくぱくとさせるが、反論の言葉は出てこないようだった。
「まあ、今日は僕と莉央と広香さんの三人で食事の予定があるので、旦那さんはまた後日来ていただけますか?」
「ですが、これは僕と妻が話し合うべき問題で……!」
「今は興奮状態のようですし、話し合える雰囲気じゃないですよ。もしよければ、話す時は僕もご一緒します。第三者がいた方が、スムーズに進むと思うので。とりあえず今日はおかえりください」
修二は有無も言わさぬ言い方で、エレベーターの方を手で指し、にっこりと微笑んだ。
渉はその恐ろしいほど綺麗な笑顔に圧倒されたのか、オドオドしながら後退りした。
「そう、ですね……」
「では、また」
修二が呆然と立ちすくむ渉を置いて、部屋の中に入りドアを閉めた。
閉まる直前のドアの隙間から見える渉は、血が出そうなほど強く唇を噛み、足元のコンクリートをじっと見つめていた。
渉を追い返してくれた修二に、莉央は「あんたやるじゃん!」と嬉しそうに背中を叩いた。
修二には弁護士を紹介してもらったこともあり、夫と何があったのかは一通り説明していた。それなのに、冷静に対処してくれたおかげで助かった。
最初のコメントを投稿しよう!