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るり子からの返信は拍子抜けするほどシンプルで丁寧なものだった。普段の彼女からは想像もできない文体だ。不倫がバレているとわかり、腹を括ったのだろうか。
だが、今日はるり子を責めるために来たのではない。自分が渉と離婚する気であること、夫と自由に交際してくれて構わないと伝えるために来たのだ。
緊張をほぐすため、アイスコーヒーを一口飲む。すると、黒髪のメガネをかけた若い女性が広香のテーブルに近づいてきた。
「広香さんですか?」
「はい、そうですけど……」
どこか見覚えがあると思ったら、るり子のSNSに載っていた写真に写っていた女性だった。るり子の代わりにきたのだろうか。「一ノ瀬さんは……」と尋ねようとすると、女性は広香の目の前に座り、静かな声で言った。
「はじめまして。橋田愛です」
「え?」
と思わず大きな声が出た。
「なんで驚いてるんですか?まだ籍はいれていないので、正確には旧姓のままですが、あなたがわーくんと離婚したあと、すぐに橋田になるので」
顔色ひとつ変えず、早口でそう言う目の前の女性に、広香は開いた口がふさがらなかった。
SNSの「愛」は、広香がずっと一ノ瀬るり子だと思っていた相手は、目の前にいるこの女性だったのだ。
あまりの衝撃に、広香はしばらく声が出ずに固まっていたが、勝手に話し続ける愛の話を聞くうちに、徐々に状況が理解できた。
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