8 愛の正体

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 橋田愛と名乗るこの女性は、渉と不倫関係にあり、SNSのアカウントも「❤️」の名前で送っていたメッセージもすべて彼女のものだった。渉とは大学の同期であるるり子の紹介で知り合ったという。つまり渉は、るり子と愛、二人と不倫関係にあるのだ。しかし、愛はそれを知らないのだろう。広香と離婚したあと、渉は自分と結婚してくれるものだと思い込んでいるようだった。 「るり子ちゃんも私たちのこと応援してくれてますし、あなたが出る幕はありません。別居してくれたのはありがたいですが、私たちの間には子供もいますし、早く渉さんの前から消えてくれますか」 「えっと……」  強気な発言ではあるが、一方的で会話にならない。それに、愛は終始俯いており、聞き取るのに前のめりになる必要があるほど声が小さいのだ。  SNSで煌びやかな生活や恋愛の話を投稿している人と、同じ人物だとは思えなかった。 「それで話ってなんですか?私も忙しいんです。はやく要件を言ってください」 「あのね、あなたの言うとおり私は夫と離婚する気でいます。今すぐにでも離婚したいくらいなの。だから、あなたが夫と付き合うのは自由だし、邪魔する気は……」 「もうあなたの夫じゃない! 元!夫!でしょ!」  突然の大声に広香の身体がビクッと跳ねた。彼女の怒りのスイッチがどこにあるかわからず、広香は恐る恐る言葉を続けた。 「そ、そうね……それで、その、元夫について、私は本当にもうなんとも思ってないの」 「……」
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