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とりあえず広香に連絡しよう。連絡は弁護士を通せと書いてあるが、どうして妻と連絡をとるのにわざわざ第三者を介さなければいけないのか、渉には理解できなかった。それに、電話で適当に平謝りしておけば、広香の機嫌もなおるはずだ。
実際に、自分の母親は夫がどんなに浮気をしようと、暴力を振ろうと、謝られればすべて許していた。
「お父さんがいないと私はダメだから」
それが昔から母の口癖で、理想の妻のように思えた。
広香だって、今から子供も産まれるというのに、自分なしでは生きていけるはずがない。
広香に連絡しようとスマホを取り出すと、ちょうど愛からメッセージが来ていた。
『今、電話できる?話したいことがあるの』
そのメッセージを読んでしまったことを、渉は早速悔やんだ。
「はあ……めんどくさい女だな」
最近、愛からの連絡頻度が異様なまでに増え、その異常さに気づいた渉は距離をとっていた。
愛はセフレであるるり子から紹介された女だ。面白いくらい騙されやすい女で、少し好意を匂わせただけで股を開き、さらには「最近妻にお小遣い減らされて……」と愚痴を言うと、ホテル代まで出してくれるようになった。もちろんうちは小遣い制などではない。
愛もるり子ほど綺麗ではないが、とにかく呼べばいつでも制欲処理の相手になってくれる便利な女だった。
(そうだ……るり子も愛も、僕にとってはただの性欲発散のツール、遊びでしかない。そのことを知れば、広香だって納得するだろう)
いつでも抱ける女を失うのは惜しいが、しばらく愛と連絡をするのはやめよう。
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