9 追い詰められた不倫夫

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「そんなのヤリたくて、嘘ついたに決まってるだろ? それなのに妊娠したとか、結婚とか、めんどくさいこと言うなよ……。子供も絶対堕ろして。僕はちゃんと避妊してたんだから、妊娠したのは君の責任だ。手術代はそっちででなんとかしてくれよ。僕にはもう二度と連絡してこないでほしい」 「渉、さん……?」  愛の顔がどんどん青白くなっていく。全身が小刻みに震え、少し押しただけで、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。 「ねえ、いいの……?男の子だよ?渉さんがずっとほしいって言ってた男の子がここに!私のお腹にいるんだよ……?」 「バレバレの嘘つかないでくれる?こんなに早く性別なんてわかるはずないだろ」 「嘘じゃない!この子は絶対男の子なの!」  目を大きく見開きそう訴える愛を、渉はうんざりした顔で見た。 「……どちらにせよ、子供を認知する気はないから。もう会うのも今日で最後だ」 「やっぱりるり子ちゃんの方が大切なんだね。るり子ちゃんのせいで……あのアバズレ女のせいで渉さんは変わっちゃったんだ……」 「るり子は別に関係ないだろ……」  すると、愛は突然カバンからナイフを取り出し、自分の腹に向けた。  渉はギョッとして、後退りした。   「おい、何してるんだ!やめろ!」  こんなところで自殺未遂でもされたら、警察に事情聴取されるのは渉だ。もしかしたら会社にも連絡がいって、不倫の事実や広香とのゴタゴタもバレるかもしれなかった。  面倒ごとには巻き込まれたくない。渉は愛からナイフをとりあげようと、手首を思い切り掴む。
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