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「離して!私のこともお腹の子もどうでもいいんでしょ!だったらここで死んでやる!死んでやるから!」
「死ぬなら一人で死ねよ!お願いだから僕を巻き込まないでくれ!」
暴れる愛を足で蹴り、無理やりナイフを奪う。
その拍子に、後ろにドスンと倒れた愛は、苦しそうに顔を歪めながらお腹を抑えた。
「痛い……」
「もう二度とこんな真似するなよ!」
「痛い、痛い、痛いよ……渉さん……どうして」
痛みに顔を歪める愛は、まるで呪文のようにブツブツと何やら呟いていたが、一刻も早くこの異常な女から離れたかった渉は、奪ったナイフを遠くの方に投げ、足早にその場を去った。
愛との揉み合いですっかり疲れ果てていた渉が自宅に帰ると、両親がリビングに座っていた。
「母さん、父さん……」
「ちょっと渉!広香さんから聞いたわよ!離婚ってどういうこと!?」
帰ってくるなり、離婚という話題を出され、さらに苛立ちが募る。すべて解決してから報告しようとしていたのに、広香はすでに両親にも連絡していたのだ。
「色々あったんだよ。全部あいつが悪いから」
「けど、あなた慰謝料まで請求されてるんでしょう!?橋田家の跡取りが、あんな小娘に取られていいの?せめて親権だけでも……」
「わかってる。なんとか説得するから」
「もう、だから嫌だったのよ!あんな育ちの悪い子を渉の嫁にするのは!シングルマザーの子供なんて、ろくな育ち方してるわけないじゃない!」
ヒステリックに叫ぶ母親の隣で、父親が厳かな顔で口を開いた。
「渉」
「……はい」
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