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そう心の中で呟き、愛しいお腹を撫でた。
「広香……!」
すると、突然自分を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえた。
そこにはげっそりとした顔の渉が立っていた。ヒゲもそっていないようで、広香が知る渉とは別人のようだった。
「渉さん…っ!なんでここに……」
「なあ、広香!戻ってきてくれよ!お願いだから!」
駅の近くで、人通りが多い場所にも関わらず、渉は膝をついて、広香に縋りついた。
「やめて!触らないでよ!」
「ごめんって何度も言ってるだろ?悪いところがあったなら、治すよ。僕には広香がいないとダメなんだ」
「何を言われてもあなたとやり直す気はないから!わかったらさっさと帰って!警察に通報するわよ」
「……っ! なんで君はそんなに意地をはってるんだ!この僕が、こんなに謝ってるんだぞ!元はといえば君が全て悪いのに!」
「ほら、それがあなたの本心でしょ?悪いだなんて少しも思ってないじゃない」
「……」
「離婚したい理由は不倫だけじゃない。毎日男ってだけで偉そうにされるのに、うんざりしたの。一人じゃ掃除や洗濯もできないくせに、家ではいばって私に命令ばかり。そんな人と一緒に生活していけるわけがない。私、もう限界なの。あなたのことが大嫌いなのよ!」
「……」
広香から聞く本音の数々に、少なからずダメージは受けているようだった。
渉は、わなわなと震え、目には涙が浮かんでいるようだった。
「僕がすぐ会いに来なかったから怒ってるのか?」
「は?」
「……今、愛に付き纏われてるんだ。だからずっと広香に会いにこれなくて……」
「愛って……」
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