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あの後、やはり愛は渉に妊娠の事実をつたえ、仲がこじれたのだろう。SNSの更新はずっと止まっていた。
「あいつ、僕の会社まで来て大声出して、暴れたんだ!そのせいで、誤解されて会社でも立場がないんだよ……!僕と結婚する気でいるらしいんだ。僕が愛してるのは広香だけなのに!あいつは勘違いしてるんだよ」
そんな話をして同情してもらえるとでも思ったのだろうか。相変わらずの浅はかな考えに、広香は呆れてため息をついた。
「……そんなの私には関係ないことよ。あなたの自業自得じゃない」
「関係ある!君は僕の妻だろ!」
「もう私はあなたの妻じゃない。会うのは本当に今日で最後だから」
そう言い捨て、広香が渉に背を向けると、後ろから渉の弱々しい声が聞こえた。
「君だけで、本当にその子を育てられるのか?」
「……」
「その子も、君と同じひとり親にするつもりか?」
渉の言葉に、広香は思わず立ち止まった。
「あんなに父親がいないことを気に病んでたのに、君は自分の子供に同じ思いをさせるのか。君のエゴで!」
確かに広香にとって父親がいないことは、幼少期からのコンプレックスだった。
だが、今ならわかる。父親を亡くしたあと、自分のために朝から晩まで働いてくれた母親の愛情は本物だった。片親でも、十分なほどの愛情を注がれて、広香はすくすくと育ったのだった。
広香は大きく息を吸った。そして、何度言っても理解しない渉に、今まで出したことのないような大声をぶつけた。
「私はもうあなたを捨てたの!わかる!?ゴミみたいな父親なら、いない方がずっとマシなのよ!」
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