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そう叫ぶとスッキリした。ビリビリと全身に電気が走ったような感覚がして、アドレナリンが出ているのを感じる。
広香の声に、通行人の何人かがこちらを振り返ったが、今日くらいはこうしてこの夫を突き放すのを許してほしい。
膝をつき、呆然とこちらを見る渉は魂が抜け落ちたかのようで、かつて広香を支配していた夫と同一人物とは思えなかった。
広香は渉を置いて、そのまま駅に向かった。
今夜、広香は夫を捨てたのだ。素晴らしく晴れやかな気分だった。
****
真っ暗な部屋で一人、愛はまだ痛むお腹をさすりながら、大粒の涙をこぼしていた。
「私の赤ちゃん……本当にいなくなっちゃったの?」
渉に蹴られ、突き飛ばされた後、下半身から大量の血を流した愛は急いで病院に駆け込んだ。子宮の中を調べるとそこに命のかけらはなく、愛は流産していた。
まだ妊娠初期で不安定な時期だから仕方がないよ。と医者に言われた時、愛は思わず「この子は殺されたんです!」と叫んでいた。
しかし、そんなふうに訴えても医者には相手にされず、そのまま追い出されるような形で病院をあとにしたが、愛は本気で子供を渉に殺されたと思っていた。
渉に会うために会社にも行ったが、警備員に止められ、近づくことが禁じられた。渉の妻になるはずの女だったのに、どうしてこうなったのかわからなかった。
「許さない……るり子も渉さんも……。私を裏切ったこと、後悔させてやる」
暗闇で響く愛の言葉には、身の毛がよだつほどの憎悪がこもっていた。
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