495人が本棚に入れています
本棚に追加
10 幸せな記憶【最終回】
キョロキョロと辺りを見渡し、愛がいないのを確認しながら、渉は今日もげっそりとした顔で退社した。
恵比寿駅で落ち合ったるり子はそんな渉の顔を見て、心配そうに眉を下げた。
「渉さんどうしたのぉ?元気なくない?」
「まあ、色々あって……」
昨日、自宅に警察が来た。広香への付き纏いや接近の禁止が命じられ、厳重注意を受けたのだ。
近所の目もあるのに、ふざけた理由で警察をよこした広香が憎くてたまらない。
(何がストーカーだ!夫をそんなふうに言うバカな妻がどこにいるっていうんだ!)
渉が険しい顔のまま歩いていると、るり子が腕をからめて甘えた声で言った。
「もしかして離婚のことで悩んでるの?いいじゃん、あんな口うるさいだけの女。渉さんにはもっといい女がいるよぉ。ほら、私とか?」
そう言って、るり子に豊満な胸を押しつけられると、下半身が熱くなるのを感じた。
広香との離婚を受け入れ、自分に好意をもつるり子との再婚も一度は考えた。ただ、彼女は広香と違って家事もろくにできないし、金遣いも荒く、なかなか言うこともきかない。着ている服装はいつも露出が多く、たまに隣に連れて歩く分にはいいが、妻としては不合格だった。
だからこそ、愛のように誤解させてはいけない。
最初のコメントを投稿しよう!