10 幸せな記憶【最終回】

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10 幸せな記憶【最終回】

 キョロキョロと辺りを見渡し、愛がいないのを確認しながら、渉は今日もげっそりとした顔で退社した。    恵比寿駅で落ち合ったるり子はそんな渉の顔を見て、心配そうに眉を下げた。 「渉さんどうしたのぉ?元気なくない?」 「まあ、色々あって……」    昨日、自宅に警察が来た。広香への付き纏いや接近の禁止が命じられ、厳重注意を受けたのだ。  近所の目もあるのに、ふざけた理由で警察をよこした広香が憎くてたまらない。 (何がストーカーだ!夫をそんなふうに言うバカな妻がどこにいるっていうんだ!)  渉が険しい顔のまま歩いていると、るり子が腕をからめて甘えた声で言った。   「もしかして離婚のことで悩んでるの?いいじゃん、あんな口うるさいだけの女。渉さんにはもっといい女がいるよぉ。ほら、私とか?」  そう言って、るり子に豊満な胸を押しつけられると、下半身が熱くなるのを感じた。    広香との離婚を受け入れ、自分に好意をもつるり子との再婚も一度は考えた。ただ、彼女は広香と違って家事もろくにできないし、金遣いも荒く、なかなか言うこともきかない。着ている服装はいつも露出が多く、たまに隣に連れて歩く分にはいいが、妻としては不合格だった。    だからこそ、愛のように誤解させてはいけない。  
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