10 幸せな記憶【最終回】

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 そして、のちにニュースを見て知ったのだが、渉が突き落とされたのと同じ日に、るり子は友人の細谷愛に包丁で刺され、下半身付随になってしまったという。るり子は仕事を辞め、家から一歩も出ない生活を送っており、愛は殺人未遂で逮捕されていた。  さらに警察の調べによると、その時るり子は渉と一緒にいたらしい。愛にはアリバイがあり、いまだに犯人は捕まっていないというが、渉を突き落としたのも愛なのではないかと広香は密かに思っていた。  事件はドロドロ三角関係と報道され、もちろん渉が不倫していたことも世間に知れ渡ってしまった。世間体を気にしていた義両親は今頃どうしているだろうかと、たまに考えるが同情する気にはなれない。  あんなに夫と不倫相手を憎み、復讐したいと思っていた広香も、最終的には息子を守れればそれでいいと思っていたが、やはり神様はいるのだろうか。  渉やるり子、愛の身に起こった話を聞いた時、こちらがわざわざ手を下さなくても、悪い人間には天罰が下るものなのだと、思わず感心してしまった。    請求書等をもらい、すべての手続きを済ませて立ちあがろうとすると、「あっ!最後に渡したいものが……」と弁護士がカバンの中から何かを探し始めた。  そして「あった、これだ!」と取り出したのは、一冊の手帳だった。 「橋田渉さんの弁護士からこちらの手帳を預かってるんですが、広香さんのもので間違いないですか?」 「これは……」  橋田広香、と書かれたその手帳は、確かに自分のものだった。  しかし、ずっと前に渉に破られ、捨てたはずだ。なのにどうして……。  
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