10 幸せな記憶【最終回】

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 いつの間に目が覚めたのか、抱っこ紐の中で息子がぐずり始めた。よしよしと背中を優しく叩きあやしていると、息子のあたたかい体温が自分の身体にも伝わり、心までじんわり暖かくなるような気がした。 「そうだ……もう一度書き直そう」  この子の命を守り抜くために、過去に戻ってきたあの日から、辛いこともあったけれど、それでも希望は失わずにいた。  一人だったらいつまでも渉や義両親に囚われていたままだったかもしれない。けど、この子がいたおかげで、最後まで耐え抜き、頑張ることができたのだ。  離婚協議の最中でも、妊婦検診は毎回広香の楽しみであり、癒しだった。  毎回の検診で言われた医者からの温かい言葉や、エコーであくびをしているのを見た時、胎動が激しくて元気な子なのだと喜んだ日。お腹の子と一緒に戦ってきた日々のことは、今でもはっきりと覚えている。  この子が大きくなったらそんな日々の記録を見せてあげよう。    「ありがとう。あなたのおかげでお母さん頑張れたんだからね」と感謝の気持ちを伝えて、「産まれてくる前からずっとあなたを待ち望んでいたんだよ」と思い出を共有しよう。    広香はまた穏やかな顔で眠り始めた息子のおでこにキスをし、手帳を大事そうにカバンにしまった。 Fin. ———— ここまでお読みいただきありがとうございました!!!
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