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わたるな。
「はあああああああああああああ!?なんで二人だけで旅行なのさああああああああああ!!」
案の定だった。夫婦水入らずで旅行に行きます、と伝えるや否や。女子高校生の娘は、ぷっくーと頬を膨らませて怒る。
「あたしも行きたい!和歌山!わっかやまあああ!」
「ご、ごめん和歌奈!今回行こうとしてるのは田舎の神社とか遺跡巡りだから、和歌奈はあんま楽しいところじゃないんだ」
「でもでもでも、高級旅館泊るんでしょ?美味しいごはん食べるんでしょ?いいなあ、いいなあ!」
この反応は予想済みとはいえ、少しだけ心苦しい。ははは、と僕と妻のみどりは顔を見合わせるしかなかった。
実のところ、彼女を置いていく最大の理由は、お金が高くつくからというのが大きい。家族旅行で行ける場所と夫婦だけの旅行で行ける場所は違うというのもあるが、今回の旅館は二人で宿泊する場合と三人で宿泊する場合で値段が段違いなのだ。
二人だけで、娘があまり好きではない野山の探索をしたい、そういう旅行が行きたいと前々から妻と話をしていたのである。都会とショッピング、遊園地や動物園が好きな娘はきっと楽しくないのも事実だろう。夫婦水入らずで、娘があまり好きではない自然を満喫するようなハイキングがしたい――たまにそう考えても問題はないはずだ。
「カップ麺も買ってあるし、今月はお小遣いも増額するから、ね?三日間だけよ、我慢してちょうだい。そのうちあんたも和歌山で、アドベンチャーワールドとか連れていってあげるから」
みどりの言葉に、渋々和歌奈は引き下がった。
「……お土産。すっごく美味しいの買ってきてくれなかったら、マジで怒るからね」
食いしん坊の娘である。
まあ、最終的に美味しいものを買って帰れば機嫌も直ることだろう。
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