わたるな。

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 ***  夫婦二人、お喋りをしながら旅館に戻る。  頂上でかき氷を食べたのに、麓のカフェでもあんみつを戴いてしまった。観光地値段でも買ってしまうのは、やっぱり二人きりの旅行に浮かれているからなのだろう。  旅館のカウンターに戻ってきた時、再びカウンター奥の絵が目に入った。 「そういえば、着物欲しいって言ってたっけ。……浴衣くらいなら買えるよ。来る途中良さげな店あったし、買ってく?」  僕が尋ねると妻は“そうね”と少し考えた後告げた。 「藍色以外がいいわ。その色はもう持ってるもの」 「あれ、そうだっけ?浴衣持ってた?はつね」 「ええ。一着だけだけど。紅色の着物とかも欲しいなって思ってたところ。私に似合うでしょう?」 「うんうん、似合う似合う!」  ちらり、とカウンター前を通り過ぎる時、もう一度僕は例の絵を見た。  そういえば、あの絵の女性は眼鏡なんてかけていただろうか?洋服姿だっただろうか? 「……まあ、いっか」  僕は少し首を傾げたものの、そのままその場を後にしたのだった。  あの絵の“みどり”という名前がどこか引っかかった気がするが、まあきっと気のせいなのだろう。
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