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夫婦二人、お喋りをしながら旅館に戻る。
頂上でかき氷を食べたのに、麓のカフェでもあんみつを戴いてしまった。観光地値段でも買ってしまうのは、やっぱり二人きりの旅行に浮かれているからなのだろう。
旅館のカウンターに戻ってきた時、再びカウンター奥の絵が目に入った。
「そういえば、着物欲しいって言ってたっけ。……浴衣くらいなら買えるよ。来る途中良さげな店あったし、買ってく?」
僕が尋ねると妻は“そうね”と少し考えた後告げた。
「藍色以外がいいわ。その色はもう持ってるもの」
「あれ、そうだっけ?浴衣持ってた?はつね」
「ええ。一着だけだけど。紅色の着物とかも欲しいなって思ってたところ。私に似合うでしょう?」
「うんうん、似合う似合う!」
ちらり、とカウンター前を通り過ぎる時、もう一度僕は例の絵を見た。
そういえば、あの絵の女性は眼鏡なんてかけていただろうか?洋服姿だっただろうか?
「……まあ、いっか」
僕は少し首を傾げたものの、そのままその場を後にしたのだった。
あの絵の“みどり”という名前がどこか引っかかった気がするが、まあきっと気のせいなのだろう。
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