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気づいたクラウスは彼に視線を向け、声をかける。
「なぜ、ここに? 今日はお前に用はないと言っていたはずだが?」
「殿下のことが心配でしたので様子を見に来ました。ですが、お部屋に不在でしたので戻ろうとしているところです」
だから見張りも彼を通したのだろう。適当な言い訳を並べ立てれば、あそこを通ることができるような男なのだ。
「そうか、だったらさっさと持ち場に戻れ」
クラウスの言葉に男は顔をしかめた。
「殿下……。もしや、工場の方に行かれておりましたか? その……、臭いが……。すぐに風呂に入られるのであれば、誰かに言付けますが」
男が「臭い」と口にした途端、クラウスは顔を歪めた。なぜそのようなことをこの男から指摘されなければならないのか。
「不要だ。いいからお前はさっさと持ち場に戻れ」
「失礼しました」
男は頭を下げると、クラウスの前を通り過ぎていく。
ちっ――。
クラウスは舌打ちをした。
(なぜあいつがアデラと会う必要がある)
怒りにまかせて床を踏みしめながら、クラウスは自分の部屋ではなくアデラの部屋の前に立つ。扉を叩くと、不機嫌そうなアデラの声が中から聞こえてきた。
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