第一章

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 扉の向こうから聞こえてきたのはヘンリッキの声。この声色は、決して機嫌がいいとは言えない声色だ。  ガチャリ――。  開けた扉をまた閉めて、この部屋を立ち去りたい気分だった。  執務室のセピア色の床の上にチャコールグレイのソファが二つ、テーブルを挟んで向かい合って置いてある。窓を背に執務用の重厚な黒い机があり、壁もベージュでどことなく落ち着いた雰囲気の部屋。  執務室に足を踏み入れたファンヌが目にしたのは、ソファにヘンリッキとヒルマが並んで座り、その向かい側に兄のハンネスが難しい顔をして座っているという状況。 「座りなさい」  ヘンリッキが、ファンヌにハンネスの隣に座るようにうながす。 「はい」  静々と頷き、彼女はハンネスの隣に腰をおろした。ハンネスはファンヌと違い、チョコレートブラウンの髪を持つ。こうやって並んでも、兄と妹であるとは一目見ただけでは気付かないだろう。兄の髪は、父のヘンリッキ似なのである。そしてファンヌはもちろん母親のヒルマによく似ていた。 「早速だが、本題に入らせてもらう」  ヘンリッキのサファイアブルーの瞳が光ったように、ファンヌには見えた。
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