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「ああ。ベロテニアの伝統的な染物だ。あれに刺繍を入れて、何かすると聞いたことはあるが。そういったことに、オレは疎いからわからん」
この国の王子であれば、自国の伝統的なものについても少しは知識として持っているべきだと思うのだが、興味の無いことを頭の中には残しておきたくないところが彼らしい。
「あれは?」
「絹糸だな。織物に使う」
「あっちは?」
「あれは茶葉だな」
「見たい」
「言うと思った。だが、先に昼ご飯にしよう。お腹、空いているだろう? 師匠が言っていたレストランがすぐそこだ」
「はい」
ファンヌが笑顔で返事をすると、エルランドも笑顔で見つめてきた。目が合った瞬間、ファンヌの心がドキっと跳ねた。
(あ……。まただ……)
今朝方から、時折胸が痛む。
(もしかして……。病気? せっかくベロテニアに来たのに。後で大先生にでも相談しよう……)
ファンヌが何も言葉を発せず、ただじっと立ち止まっていたことにエルランドも気づいたのだろう。
「どうかしたのか?」
「いえ……。後で、何を買おうかって考えていました」
「そうか」
エルランドも安心したのか、また銀ぶち眼鏡の下の目を細めた。
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