第五章

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 さらにキュロというのは、彼の母親の方の姓であり、論文を発表するときには身分を隠すためにそちらを使用しているとのこと。身分を隠すといってもベロテニア王国内では周知の事実であるため、リヴァスの者に知られないようにという理由が大きい。  とにかく、エルランドはベロテニアの第三王子でありながらも、研究者で調薬師という顔を持っているため、いろいろと複雑なようだ。  そしてファンヌは、オスモの好意で調薬室のある建物の一室を研究室として与えられていた。これもエルランドがベロテニアに戻ってくる前に、オスモに共同研究者を連れていくと伝えていたことが原因だ。だが、オスモは彼の言う共同研究者が男子学生であると思っていたようだ。  そんなファンヌの部屋はエルランドの隣の部屋であるにも関わらず、なぜか自室にいるよりも彼の部屋にいる方が多かった。 「う~ん」  と唸っている今も、エルランドの研究室にいる。 「どうかしたのか?」  何やら文章を書いていたエルランドが、顔をあげた。 「やはり。こちらの茶葉ではうまくいかないようなのです。どうしてもこちらは気候が涼しくて、そちらに強い茶葉が多いですよね」
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