第五章

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「いや、礼を言いたいのはこちらのほうだ。お茶の力で体調が良くなった者たちも多い。いつも飲んでいるお茶を、君が作ったお茶に変えるだけだから、無理なく続けることもできるようだし」 「はい」 「工場の整備に、もう少し時間はかかるが。それまでは、師匠の仕事を手伝いながら、工場の運営方法について考えて欲しい。オレも手伝うから」 「はい」 「え~、すごい」  エリッサの声がして、ファンヌははっとした。それはもちろんエルランドも同じだ。彼女の存在を忘れていたわけではない。ただ、『製茶』の工場の話に夢中になってしまっただけで。 「エル兄さまも、ファンヌの前だと、そのくらいお話ができるのね。私が声をかけても「ああ」か「違う」しか言わないくせに」  テーブルの上に肘をついて両頬を手の平でおさえたエリッサは、ぶぅと唇を尖らせている。 「別にいいんだけど。私もエル兄さまに話すようなことは、何もないから」  兄妹のやり取りを見て、ファンヌは口元を綻ばせた。と、同時に、離れ離れになってしまった家族のことを思い出してしまう。
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