第五章

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「ありがとう」  ファンヌがエリッサに背を向けた途端、人の気配が増えたような気がした。チラリと振り返ると、エリッサの周囲に男性が二人、女性が二人増えている。よく見なくてもわかる。あれはエルランドの二人の兄と、彼らの妃だ。  見なかったことにしようと、ファンヌは再び前を向いた。だが、右肩から熱い視線を感じる。見上げると、エルランドが嬉しそうにファンヌを見下ろしていた。 「どうか……。されましたか?」 「いや。今まで、自分の気持ちを口にするものではないと思っていたが。そういったことも必要なんだなと思っただけだ」 「そうですね。口にしないと伝わらない気持ちもありますから」  そうファンヌは口にして、ファンヌ自身もここに来てから自分の気持ちを素直に口に出せるようになっていたことに気づいた。  クラウスの婚約者として扱われるようになってからは、ファンヌも言いたいことを心の奥に閉じ込めていた。
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