第五章

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 特にクラウスやあの国王と会うときは。特に国王は『製茶』の工場に対してあれこれ口を出してきた。もっと効率的にお茶を作れないのか、人を増やせ、一日中工場を動かせ、等。それに意見するときは、心を無にして、事実だけを淡々と述べるようにしていた。感情的になっては、国王を説得することができない、工場の作業員たちを守ることができないと思っていたからだ。  ふと思い返す。それでもクラウスの婚約を続けていたのは工場で働いている人たちを守りたかったからだということに。  ファンヌがいなくなってしまった今、彼らはどうしているのだろうか。  彼らのことを顧みずにここに来てしまったことに、ファンヌは後悔し始めた。  そしてその気持ちはどうやら隣のエルランドに気づかれてしまったようだ。夕日によってオレンジ色に染め上げられたエルランドは「どうかしたのか」と声をかけてくる。  言うべきか言わぬべきか。彼と繋がれた手に、ぎゅっと力を込めるファンヌ。 「口にしないと伝わらないときもあるだろう? それに口にすることで、心が晴れることだってある」
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