第五章

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 先ほどファンヌがエルランドに伝えた言葉でもある。そして、エルランドの気遣いが足されている。 「私。自分のことしか考えていませんでした。リヴァスの『製茶』の工場で働いていた人たち。彼らは大変な作業をしていたにも関わらず、彼らに何も伝えることなく、ここに来てしまったので……」 「ああ、なるほど。だが、それは心配には及ばない」 「え?」  ファンヌは驚いてエルランドの顔を見た。彼の後ろには沈みかけの夕日が見える。 「ファンヌのことだから、彼らのことを気にするだろうと、ヘンリッキさんが言っていた」  突然、父親の名が出たことにファンヌはパチパチと瞬きをする。 「リヴァスのことは、君の家族がきちんと面倒をみるはずだから、安心しろ。もし、君が望むなら、一度、向こうに連れていくが?」  エルランドは転移魔法を使って、ファンヌを両親と会わせることを考えているのだろう。  だが今、家族に会ったらエルランドの気持ちから逃げ出して、向こうに留まることを選んでしまうかもしれない。 「いえ。大丈夫です。せ……。エルさんの言葉を信じます」
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