第一章

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「陛下が戻ってこられるまで、まだ二十日程あるが」  ヘンリッキの口調は重い。それはこの婚約解消が与える影響をわかっているからだろう。 「ファンヌ。君はこれからどうするつもりだ?」 「はい。学校で『研究』を続けたいと思っております。クラウス様の婚約者に選ばれてから、退学という形をとってしまったので」 「『研究』だったら、王宮でもできるのではなくて?」 「いいえ。お母様。王宮で『研究』はできないのです。今まで私が開発したお茶を量産することばかりで、新しいお茶の『研究』は一切していないのですよ」  ファンヌが調茶したお茶の効能は高いとされている。よく眠れるお茶、不安を取り除くお茶、疲れをとるお茶などが人気だ。それらのお茶は王宮の近くにある工場(こうば)で大量に製茶されていた。  つまり、国王がファンヌを手元に置いておきたいという理由が、ファンヌの調茶能力の高さなのだ。彼女が調茶したお茶を売ると、売れる。ようするに国庫が潤う。単純な理由。
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