第六章

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 人のいなくなった工場には『製茶』で使われる器具が散乱し、材料となる茶葉や薬草がツンと鼻につく(にお)いを放っていた。顔を布地であてがっても、鼻につく臭いは体内に入り込んでくる。 「くそ、くそ、くそ」  異臭を放つ薬草を布の袋にいれながら、クラウスは悪態をつくことしかできない。 (なぜだ……、何が悪かったんだ……)  クラウスにはそれがわからない。 (いや、僕は悪くない……)  最後の薬草をぼふっと乱暴に袋にいれ、足で袋を押さえつけながら縛り上げる。 「お前たち。これを運んでおいてくれ」  クラウスは怒りに任せて、袋に薬草を詰め込む作業を行っていた。気が付けば十数個の布の袋が大きく膨れ上がっていた。  作業に使った手袋も臣下に投げつけ工場から出ると、クラウスは急いでアデラの元へと向かった。  アデラは妊娠の安定期に入ったところで、気分が良ければクラウスと庭園を散歩することもあった。  アデラの部屋へと向かうクラウス。彼らの私室のあるこちらの場所には、入口に護衛が立っており、王族以外の者は立ち入ることができない。クラウスについていた護衛もこの場で控えの間に下がる。
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