第六章

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 一つ目の角を右に曲がればアデラとクラウスの私室がある。王族ではないアデラがこちらの場所に部屋をあてがわれたのは、彼女の腹の中にいる子が王族の血を引いているためだ。  その角を曲がった時、アデラの部屋の前にアデラと男が立っているのを見てしまった。  クラウスは思わず向こうから死角となる壁に身を隠す。 (誰だ……。アデラと一緒にいる男は……)  彼らに気づかれぬように顔だけ出して、二人を観察する。何やら言い合いをしているようにも聞こえる。 「……子じゃ……いのか?」  男の声だ。 「あの人の……わけ……じゃない……。だって……」  アデラの声は楽しそうだ。 「さっさと……。面倒な……。私は……から」  男がアデラの部屋の前から立ち去る気配がした。この建物から外に出ていくためには、今クラウスがいるところを通っていく必要がある。ここに隠れていたら、二人を覗き見していたことが知られてしまうだろう。  クラウスは小さく息を吐き、姿勢を正してからアデラの部屋へと堂々と歩き出した。  男とすれ違う。 (護衛騎士か……)  すれ違った男は見たことのある男だった。というよりも、クラウスの護衛騎士だ。
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