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トンと胸を軽く叩くヒルマが、この中で一番頼もしく感じた。
この後、家族で他愛もない話をした後、ファンヌは自室へと引き上げた。窮屈なオレンジ色のドレスを脱ぎ、シャツとトラウザーズに着替える。令嬢とは思えない恰好であるが、ファンヌにとってはこの恰好が動きやすかった。
まだ日が沈みきるまでには時間がある。ファンヌは屋敷の裏庭に足を運んだ。ファンヌが育てている薬草や茶葉が西日を浴びて、風に揺られていた。王宮内の庭で生育させてもらえないかと頼んだが、それはやんわりと断られてしまった。その代わり、工場の方で育てろと命じられる。
ファンヌは工場のように管理された空間で人工的な光によって育てるのではなく、庭園や畑で自然光を浴びる薬草や茶葉を育てたかった。
王宮の考えはとにかく『量産』だった。必要な薬草や茶葉をいかにして効率的に育てられるかが重要だったのだ。
ファンヌは赤い花を咲かせている薬草の前で膝を折る。独特の香りが、鼻腔をくすぐる。
(今日はこれにしよう)
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