プロローグ

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「左様ですか、おめでとうございます」  感情を押し殺した声で、ファンヌはその言葉を口にした。 「おお、ファンヌ。君もそう思ってくれるか」  茶色の目を大きく見開いたクラウスは、ぐっと身を乗り出してきた。ファンヌはそれを両手で制してから。 「ええ、新しい命を授かるとは神秘的なこと。どうか、アデラ様もご自愛くださいませ」 「本当に憎らしいくらいに良い子ちゃんね」 「えっ」 「何でもないわ。ファンヌ様からの温かい言葉で、私もこの子を産む決心がつきました」  艶やかな声でアデラが微笑んだ。 「そう。そうなんだよ、ファンヌ。アデラは僕たちのために、この子を堕胎すると言っていたんだ。だが、そのようなことが許されるわけがないだろう? だから僕は、君との婚約を解消して、アデラを正妃にしようと思ったんだ。ファンヌならわかってくれるよね」 「そうですね」  抑揚の無い声で、ファンヌは答えた。 「だけど。アデラは優しいから。もしファンヌが僕のことを好きであれば、君のことを側妃に迎えてもいいと言ってくれている。そのときは、今のまま婚約は継続させよう」
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