第一章

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 ファンヌの目的地は、その時計台よりも東側の三階にあるエルランドの研究室。学校に通っていた頃、ファンヌが所属していた研究室でもある。学校の入り口にある事務所に顔を出し、エルランドに会いに来たことを伝えると、事務員は快くファンヌに入校許可証を手渡した。 「久しぶりですね、ファンヌさん。今日はどうされたのですか?」 「エルランド先生に会いに来たのです。ちょっと『研究』のことで相談があって」 「キュロ教授でしたら、この時間は研究室の方にいらっしゃいますよ。ファンヌさんのお茶、評判が良いですよね。私も毎日飲んでますよ。あ、ファンヌさんではなく、ファンヌ様とお呼びすべきですね」 「やめてください。本当に、そういうんじゃないんで」  ファンヌは顔の前で両方の手を広げてひらひらと振った。この事務員とは学校に通っている時からの顔馴染であるため、このように砕けた口調で話してくれるのと、冗談が通じるところが良い。  ファンヌが事務員に向かってペコリと頭を下げると、彼女は手を振って見送ってくれた。
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