第一章

17/27
前へ
/311ページ
次へ
 自席で何やら調合をしていたようだ。仄かに匂う薬草の独特の香り。この香りから察するに、体力強化剤辺りを調合していたのだろう。 「体力強化剤、ですか?」  ファンヌが尋ねると、エルランドは喜悦の色を浮かべる。 「さすがファンヌだな。もしかして、香りだけで判断したのか?」 「はい。少し刺激するような香りが特徴的ですから。これを茶葉と組み合わせれば、眠気も吹っ飛んで、集中力も高まるようなお茶ができるかも……」  ファンヌがぶつぶつと言い出したため、エルランドは目を細めた。 「ところで、今日はどうしたんだ? 君は、その……。王太子殿下の婚約者だろう? 王宮の方に通わなければならないからと言って、学校を辞めたのではなかったのか?」 「あ、はい。そうです。殿下の婚約者を辞めたので、またこちらに通うことができないかと、先生にお願いしようと思って来ました」  ガタッと、エルランドが椅子から落ちそうになった。 「先生、どうかされましたか」  ファンヌが慌ててエルランドに駆け寄ると「なんでもない」と手を振り、眼鏡をくいっと押し上げた。
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1579人が本棚に入れています
本棚に追加