第一章

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「どうでもよくなってしまうの範疇(はんちゅう)を超えています。先生、ご飯はきちんと食べているんですか? どう見てもこれ……。お菓子のゴミじゃないですかっ」  ファンヌが学校を去って約半年。この男が生きていたことが奇跡なのかもしれない。 「ご飯……。いつ、食べただろうか。お菓子は食べている」 「私、売店で何か買ってきますから。先生はそのゴミをこっちのゴミ袋に入れておいてください」  ファンヌはバタンと乱暴に研究室の扉を閉めると、売店へと向かって走り出した。売店はこの建物の中央、つまり時計台の下に位置する。 (まさか、先生があんな状態になっているなんて……)  突然売店に現れたファンヌに気付いた学生たちもいたが、彼女が鬼気迫る表情をしながら食べ物を購入していたため、誰も声をかけようとはしなかった。  といっても、昼過ぎの中途半端な時間。売れ残っているのはパンがほんの少し。お菓子よりはマシだろうと思い、それを手にした。それから幾本かの野菜汁も。野菜汁は、野菜をぎゅっと凝縮して汁状にして飲み物にしたもの。時間を何よりも欲しがる研究者には重宝されている飲み物である。
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