第一章

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 ファンヌはエルランドの表情を見て、彼が疲れていることだけはわかった。とにかく、口当たりがよく、疲労を回復させるお茶を『調茶』しようと、エルランドが『研究』のために採取してある『薬草』と『茶葉』に手を伸ばす。彼の研究室は、入口から一番遠いところに彼の研究用の机が置いてある。その両脇に、本棚と薬草棚がある。不思議なことに、以前はびっちりと本が詰め込んであった本棚には空きが多い。そして今も、薬草棚には必要最小限の薬草しか置いてない。そこから必要な薬草を手にし、茶葉と合わせて『調茶』する。 「先生、お茶が入りました。それから、先ほど売店で買ってきたパンと野菜汁です」 「やはり。ファンヌが淹れてくれたお茶は落ち着くな」  銀ぶち眼鏡の下の細い目がさらに細くなった。 「で、先生。この有様はなんなんですか」  研究室に戻らせて欲しいとお願いにきたはずなのに、彼の向かい側のソファに座ったファンヌは、なぜかエルランドを問い詰めていた。 「なんで、こんなに書棚が空いているんですか? 薬草も少ないし。ゴミが多いのは、いつものことですから仕方ないですけど……」 「ああ。辞めるんだ。あと十日で」
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