第一章

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 ファンヌは完全に退路を断たれたような気分だった。せっかく、クラウスとの婚約が解消され、再び『研究』に没頭できると思っていたのに、その『研究』先が無くなってしまうのだ。 「ファンヌ。その、王太子殿下の婚約者を辞めたというのは、どういう意味だ?」  エルランドも信じられないのだろう。 「あ、はい。クラウス殿下との婚約を解消してきました」 「なぜだ。君たちの婚約は、明らかに政略によるものだろう? あの国王がそれを認めるとは思えないのだが」  エルランドがファンヌの婚約が政略であることを知っていることにも理由がある。婚約が決まった時と、学校を辞めなければならなくなった時に、この研究室で「婚約したくない」「学校を辞めたくない」と、泣きわめいていたからだ。この時には他の研究室にいた学生たちも「まあまあ」と慰めてくれたけれど、エルランドだけはファンヌが『研究』をやめなければならないことに反対していた。どうにかして続ける方法はないかと考えてくれたのもエルランドだ。  だが、始まった王太子妃教育と、王宮の工場(こうば)における製茶の管理。それらがファンヌの『研究』の時間を奪っていった。
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