プロローグ

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「いいえ。私はお二人の仲を引き裂くようなことをしたくありません。ですから、どうぞ私との婚約を解消なさってください」 「そ、そうか。残念だが仕方ないな。おい、ジェームス」  クラウスが侍従の名を呼ぶと、ジェームスと呼ばれた彼が目もくらむような黄金のトレイに一枚の書類をのせ、それをテーブルの上に置いた。その書類は二人の婚約解消のために必要なものである。 「ファンヌ。そこにサインを」 「はい」  ジェームスから羽ペンを受け取ったファンヌは、躊躇いもせずに書類にサインを走らせる。そして、クラウスも同様に。  羽ペンを置いたファンヌは、アデラを見据えた。 「アデラ様。最後に一つだけ、私の我儘を聞いていただいてもよろしいでしょうか」 「何かしら?」 「最後にクラウス様と神殿までお出かけをさせてください」 「神殿?」  アデラは不思議そうに眉根を寄せる。「はい」とファンヌは大きく頷く。 「この書類をクラウス様と共に神官長へ提出する許可をいただけますか?」 「そのくらいなら……」  アデラはクラウスと顔を寄せ合い、ファンヌには聞こえぬ声で二人は幾言かを交わしていた。
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