第一章

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 それはファンヌが明るく報告したからだろう。少し悲壮感を漂わせて、涙の一つでも見せればエルランドも同情してくれたのかもしれない。  だが、ファンヌが欲しいのは同情ではない。『研究』に打ち込める環境なのだ。 「先生、大正解です。クラウス様との婚約が正式に解消されたので、これで私は自由を手に入れたわけです。ですが……」  じとっとファンヌはエルランドを睨みつける。 「先生が辞めるだなんて、聞いてませんよ」  はぁ、とファンヌは大きく息を吐いた。それから先ほど零したお茶の残りを一気に飲み干した。 「だから、書籍や薬草もこれだけの量しか置いていないんですね。それに、他の研究生の姿も見えませんし」 「ああ。あいつらは他の教授にお願いした。といっても、調薬を専門としている研究室も限られているからな。マルクスの奴が全員を受け入れてくれた」  マルクスとはエルランドと同じ『調薬』を専門としている教授の名だ。年は三十代前半。少しおでこが広くなってきていることが悩みの種のようで、それに効くような『調薬』を研究していることで有名である。とにかく、明るくユーモラスな教授だ。
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