第十一章

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 銀のトレイの上にお茶の入ったカップを置き、寝台の隣にある小さなテーブルの上に乗せた。仄かにお茶の香りが部屋に漂う。  不思議なことに、ファンヌには彼の髭がヒクリと動いたように見えた。だが、それも一瞬。  ――どんな姿になっても愛している。  口ではいくらでも言える。例えそれが本心でなくても。だから、行動で示さなければ疑われてしまう。 『呪われた王子様は、真実の愛によって目覚めるんだよ』  ハンネスの言葉が頭の中で木霊する。 (たったそれだけのことで、この人が目覚めてくれるのなら。私は何度でも……)  眠っているエルランドは獅子の顔を保ったまま。それでもファンヌは眠る彼の唇に自分の唇を重ね、目を閉じた。  髭が頬にふれ、ちょっとだけくすぐったい。思わず、ふふっとファンヌから笑みがこぼれてしまった。 「ファンヌ……。笑いながら、口づけをする奴がいるか?」  驚いて顔を離すと、目の前には碧眼を細く開けているエルランドの顔があった。  いつの間にか獣化が解けている。ほんのわずかな時間であったはずなのに。ファンヌが目を閉じていた、わずかな時間。 「えっ。えぇえええっ」
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