第二章

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「ほら。行くぞ」  黒い髪をさわさわと揺らしながらエルランドが歩き始めたため、ファンヌもその後ろをひょこひょことついていく。 (どう見ても、王宮の方に向かって歩いているわ……)  手前のクリーム色の建物には目もくれず、一番奥にある王宮に向かってエルランドは歩いていく。すれ違う人も、なぜか彼に頭を下げる。 (先生って、何者?)  じっとエルランドを見つめるが、彼はファンヌの視線に気付いていない様子。ただ、王宮に向かってすたすたと歩いていく。 「ただいま戻った」  結局、エルランドが向かった先は、王宮ではなかった。王宮の周囲は川に囲まれているが、その川を挟んで向かい側の敷地にある、白い化粧漆喰の壁に、キャラメル色のドームがある建物の方。扉を開け、エントランスへ入るとすぐに声をかけられた。 「お帰りなさいませ、坊ちゃん」  ファンヌがぎょっと目を見開いたのは、エルランドが『坊ちゃん』と呼ばれたためだ。エルランドを見上げると、彼はかっと頬を赤く染め上げていた。 「坊ちゃん。こちらのお嬢様が、奥様になられる方ですか?」 「え? えぇええ?!」
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