第二章

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 ファンヌが驚きの声をあげると、出迎えてくれた老紳士が悲しそうに目を細めた。 「坊ちゃん……」 「す、すまない。まだ、彼女には何も伝えていないのだ」 「相変わらずでございますね」  彼らの会話の意味はファンヌにはわからない。だが、エルランドがこの屋敷の『坊ちゃん』に間違いはないようだ。 「ファンヌ、紹介する。彼は執事のショーンだ。ショーン。こちらが、ファンヌ・オグレン。オレの教え子で共同研究者でもある」 「ファンヌ・オグレンです。お世話になります」 「ファンヌ。後で他の使用人も紹介する。先に、部屋に案内しよう」 「ファンヌ様には、三階の南側のお部屋を準備しておきました。坊ちゃんの隣のお部屋です」  だが、三階の南向きの部屋に魅力を感じているファンヌには、ショーンの意味ありげな口調も気にはならないらしい。 「お荷物をお持ちします」  エルランドが一つ、ショーンが一つ荷物を持ったら、ファンヌは手ぶらになってしまった。エントランスから三階に続く螺旋階段の手すりに触れながら、ゆっくりと上がっていく。
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