第二章

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 ショーンの嘆きが聞こえてきたような気がするが、ファンヌはそれどころではない。 「先生。あの扉、鍵はかかりますか?」 「かからない」 「では、あの扉の前に……。あのテーブルを移動させても良いでしょうか」 「君が好きなように」 「ショーンさん。申し訳ありませんが、あのテーブルをそちらに運んでいただいてもよろしいでしょうか?」 「承知しました」  と答える彼の口調は明るいのだが、目線はしっかりとエルランドを捉えていた。それに気付いた彼は、わざとらしく視線を逸らしている。 「ファンヌ。荷物を置いたら、お茶にしようか。屋敷内を案内したい」 「そうですね。これほど広いお屋敷ですから、早く覚えないと迷子になりそうです」 「ファンヌ様。もし迷われた時は、我々にお声がけください」  ショーンがファンヌに対して好意的であることが、慣れない土地で不安を抱えている彼女の心を軽くした。 「ファンヌ。着替えるか? 手伝いが必要なら侍女を呼ぶ。紹介もしなければならないし」 「いえ。特に着替えたいとは思っていないのですが。このままの格好ではよろしくないのでしょうか?」
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