第一章

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第一章

(片づけをしていたら、遅くなってしまったわ。できれば神殿からの通知が届く前に帰りたかったのに)  馬車を降りたファンヌは屋敷の扉の前に立ち、小さく息を吐いた。王都にある邸宅は、赤い屋根とレンガ作りの壁が特徴的な屋敷である。  背中まであるベビーブルーの真っすぐな髪をかき上げ、耳にかける。だが、さらさらとその髪は耳から零れていく。いつもなら一つに結い上げるなりなんなりしているのに、王宮に行くときだけはその髪をおろしていく必要があった。だから今、ものすごくこの髪の毛が邪魔である。それに服装も、ドレスを要求される。今日のドレスは薄いオレンジ色の明るめのドレス。  太陽が西側に大きく傾いているため、薄いオレンジは濃く染め上げられていた。  ファンヌはもう一度小さく息を吐くと、バイオレットの瞳を伏せてから、意を決し扉に手をかける。 「ただいま帰りました」  わざと小さな声で言ったにも関わらず、執事のイーサンに見つかってしまった。 「ファンヌお嬢様。旦那様と奥様とハンネス様が、旦那様の執務室でお待ちです」  ファンヌはイーサンの言葉に顔をしかめるしかない。
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