第二章

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 さすがエルランドの母親なだけのことはある。王妃はファンヌが興味を持ちそうな言葉を並べ立ててくる。もちろんそれは、ファンヌにとって魅力的なお誘いであった。もちろん、彼女が出した答えは。 「はい。やりま……」  とファンヌが言いかけた時、エルランドにその口を手でふさがれ、続きの言葉は彼の手の中に消え去った。 「母上。適当なことをファンヌに吹き込まないでください」 「あら、適当なことではないでしょう? ローランやルフィが言った通り、どうせ『研究』を餌にして、彼女を連れてきたのでしょう? だから私は、それを叶えさせてあげようとしただけよ」 「ですが。王宮で働かせるのは反対です」  エルランドが、銀ぶち眼鏡の下で目を吊り上げる。 「どうして?」  息子とは正反対に、王妃の目尻は下がっていた。 「不特定多数の人間が出入りする……」  呟くようにエルランドは言葉を吐き出した。 「だったら、あなたのところで働かせればいいじゃないの」 「うっ……」 「まさか。連れてきたのはいいけれど、その後のことは何も考えていませんでした。って、そういう顔をしているけれど?」 「うぅ……」
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