第二章

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 王宮からの帰り道。ファンヌはエルランドと肩を並べて歩いていた。エルランドがファンヌの歩調に合わせているのだ。太陽は西に傾いていて、二人の影を長く作り出していた。思っていたよりあそこに長居してしまった。 「その……。すまなかった。黙っていて」  エルランドが口にした謝罪は、『番』のことだろう。 「誰だって言いにくいことはありますから」  それはファンヌが身をもって知ったこと。クラウスと婚約が決まり、言いたい言葉を何度飲み込んだことか。 「ですが。もしかしたら、私は先生の気持ちに答えることができないかもしれません。今はまだ……」 「ああ」 「やっとあの人との婚約が解消できたことが嬉しくて。今は愛だの恋だの、そういったことから離れたいのです」 「ああ。君の気持ちは尊重するし、オレとしては君には『研究』を続けてもらいたいと思っている」 「ありがとうございます。私、先生のそういうところは好きです」  好きと言われ、にやける口元を押さえるエルランド。 「ああ、そうだ。忘れていた」  そしてそれを誤魔化すかのように言葉を続ける。
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