第三章

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第三章

 エルランドは寝台に横になると、今日一日の出来事を思い出していた。彼女を連れて母国へと戻ってきたのは良かったのだが、それからどうしたらいいかがわからなかった。  というのも、ファンヌはエルランドの『運命の番』と呼ばれる相手だったのだ。獣人の血を濃く継ぐエルランドは、一目彼女を見たときからその衝動に気付いた。そのときはお互いに子供だった。  彼女が大人になってから伝えようと思って八年。その間、彼女はリヴァス王国の王太子であるクラウスの婚約者となっていた。  エルランドは、自身の研究もある程度成果を出し、『番』を失った今、もうリヴァス王国にいる意味はなくなったと思っていた。だから、学校を辞めて自国へ戻ろうと準備をしていたのだ。  そのとき再び彼女が現れ、『王太子の婚約者を辞めました』と言い出した。これは『番』を手に入れるチャンスだと思いつつも、エルランドは自国へ戻ることを決めていたし、自国でもそれを受け入れるための準備をしていた。だからこそ彼女を誘ったのだ。 『オレと一緒に来ないか?』  一種の賭けであった。ここできっぱりと断られたら、彼女のことは忘れよう。すっぱりきっかり忘れよう。
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