第三章

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 ファンヌがいなくなった今、あの工場はどうしているだろうか。製茶の方法は工場で働く者たちにも教えてあるから、何も問題ないはずなのだが。問題があるとしたら、あそこで働いている者たちだろう。長時間にわたる仕事をさせられるため、身体が痛むと口にする者もいた。そういった人たちに、ファンヌは特別に『調茶』したお茶を渡していた。日頃の感謝の気持ちを込め、その人にあったお茶を『調茶』する。それがあの場で『研究』ができないファンヌにとっての心の拠り所でもあったのだ。 「薬草の香りがします。こちらの薬草は、回復の効果のあるものばかりですね」  ファンヌが口にすると、エルランドは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。つまり、彼は喜んでいるのだ。 「さすがファンヌだな。この距離でこの香りで薬草の種類を当ててしまうとは。ここで栽培されているのは、滋養強壮剤とか栄養剤の元になるものが多い」 「こちらの薬草を分けてもらうことはできますか?」 「ついてこい」  朝露に輝く薬草に視線を走らせながらも、ファンヌはエルランドの後をついていく。 「おはよう」
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