第三章

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 エルランドを揶揄ったファンヌは、駆け足で屋敷へと向かった。その背中を呆然と見つめていたエルランドであるが、惚れ薬を『調薬』できるのであれば、彼女にそれを使いたいという衝動にさえ襲われていた。だが、それは決して許されるべき行為ではないことを、わかっている。  ゆっくりと足を前に運び、彼女の幻影を追うように屋敷へと戻った。  エルランドの元から逃げ出すように部屋に戻ってきたファンヌだが、先ほど『調茶』した内容を忘れぬうちに帳面に記帳していた。そもそもファンヌは閃き型の研究者であるため、ぱっとアイディアが空から降りてくるような感じなのだ。それをぱぱっと行動に移して『調茶』してしまう。だから、その内容を忘れてしまうことも過去に何度もあり、エルランドからはよく叱られていた。その経験もあったため、すぐに思いついた内容を記帳することを覚えた。  だが、帳面を走る手の動きは鈍い。 (もしかして、私の知らないところで『惚れ薬』を飲まされたのかしら……)  昨日、エルランドと王宮に行き、戻ってきてからファンヌの心臓がおかしかった。エルランドを見るたびに、ちょっとだけドクンと苦しくなるのだ。
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