第三章

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(でも、『惚れ薬』なんてものがあったら、今頃、大騒ぎよね。そもそも、人の気持ちを操るような薬は作れないのだから)  ファンヌは自身にそう言い聞かせることで、なんとか気持ちを落ち着かせ、帳面に文字を走らせる。  それが終わると立ち上がり、ここに持ってきたトランクの一つを開け、荷物の片づけを始めた。そして気付いた。衣類が足りない。そもそも現地調達をしようと思っていたのだ。ドレスやワンピースはこちらで準備をしてくれていたようだから、それは足りている。肝心の下着が足りていない。  こちらでのファンヌの当面の生活費用は、どうやらヘンリッキがエルランドに預けたようだ。そのようなことをエルランドが口にしていた。  だから、ファンヌは最小限のお金しか持っていない。  悩んだ挙句、カーラを呼ぶことにした。ベルを鳴らせばカーラが来るはずだったのに。  扉を叩く音に返事をすると、なぜか現れたのはエルランドだった。 「どうかしたのか?」  困った様に首を傾げて彼が尋ねてきた。 「私。カーラさんを呼んだつもりだったのですが」
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