第三章

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 受付の少し離れた場所に引き戸があり、その戸をエルランドが開けた。 「お、エルじゃないか。戻ってくるとは聞いていたが、いつ戻ってきたんだ?」  戸を開けると、ゆったりとした椅子に座っている男性がいた。ラベンダーグレイの髪は少し不精に伸ばしてあるように見える。年齢はヘンリッキと同じくらいの四十代だろうと、ファンヌは思った。 「昨日」 「そうか。で、後ろの嬢ちゃんがお前の番か?」  ここでもファンヌは『番』と言われてしまった。 「『番』だけど『番』じゃない」 「そうか。つまり、まだお前の片思いってことか……。お嬢ちゃん」  お嬢ちゃんは間違いなくファンヌを指している。 「は、はい」 「私はオスモ・ウニグ。ここで王宮薬師として働いている」 「え、と。ファンヌ・オグレンです。リヴァス王国の調茶師です」 「調茶師。名前は聞いたことはあったが、会うのは初めてだ。興味があるな」 「師匠」  エルランドの鋭い声。 「ああ、すまないエル。私の興味があるとは、君が思っているのと理由は異なる。純粋に『調茶』と呼ばれる技術を見たいだけだ。お前を敵に回してまで、彼女を横取りするつもりは無いよ」
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