山藤晃樹

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山藤晃樹

 ここはどこだ。なぜ、彼がここにいる。  光哉の疑問に答えるように頭の中で女の声が響く。 『ここはお前の精神世界。そして、彼は本物の山藤晃樹。お前の元上司だ』 「本物の?」 『私の力で、彼の魂だけをお前の身体の中に呼び寄せたのさ』  馬鹿なことをと笑いたかったが、光哉の記憶より少しだけ歳を重ねた彼の白髪混じりの頭と、それとは裏腹に記憶と寸分違わぬ無愛想な表情のせいで笑うことができなかった。  要するに、空想にしてはリアルが過ぎた。 「なんでそんなことを。それ以前に、あんた一体何者なんだ」  ここに至って光哉はようやく女の声が自分の心の声ではなかったことに気が付く。  超常現象。今、光哉の身に起きているのは内的な空想なんかじゃない、外的要因による超常現象だ。  女は光哉の問いには答えず、代わりに、至極愉快そうにこう言った。 『今目の前にいるのはお前を心の病に追い込んだ張本人だ。毎日毎日小言を言われ、大量の業務を押し付けられたことを忘れたわけじゃなかろう』 「……俺は、あんたは何者だと聞いているんだが」 『拳で殴ることは残念ながらできないが、言葉ならぶつけ放題だぞ。どんな罵倒も、誹謗中傷もな」 「誰だと聞いてるだろ!」 『クックック。それでは、束の間の再会を楽しむがよい』  それきり女の声は途絶え、脳内でどれだけ呼びかけても返事はなかった。  仕方なく目の前のその人に意識を移す。山藤は何を思うか、キョトンとした視線をこちらに向けていた。  会いたくなかったのは本当だ。だけど矛盾したことに、会いたいという気持ちも全くゼロではなかった。  もしももう一度会うことがあれば、その時は言ってやりたい言葉があったのだ。おい。お前のせいで俺の人生は台無しだ。お前のせいで、俺はこれから死ぬところさ、と。  本当に死ぬかどうかはさておき、今まさに、その言葉をぶつけるチャンスはぶら下がっている。呼び寄せた女の真意は分からないが、光哉の人生の(かたき)がそこにいるのだ。  異空間に対する恐怖や戸惑いを、沸々と湧き上がる怒りが真っ黒に塗り潰してゆく。 「おい」と光哉は呼びかける。
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